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和痛分娩とは
和痛分娩と無痛分娩
「無痛分娩」と「和痛分娩」には医学的な定義に明確な違いはありません。麻酔の方法や使用する麻酔薬の種類も同じです。
それでも呼び方を使い分けるのには理由があります。
「無痛分娩」というと、「痛みを全く感じない分娩」といったイメージが先行してしまいます。確かに、麻酔薬を多量に使えば「痛みを全く感じない分娩」にすることはできます。
ただし、麻酔薬の使いすぎにはリスクが生じます。
麻酔薬を多量に使い、痛みを全く感じない状態にすると、「痛みの感覚」だけでなく「いきむ感覚」が弱くなってしまいます。
自分でいきむことができなければ、吸引・鉗子分娩、さらに帝王切開のリスクが高まります。
麻酔薬には副作用もあり、副作用が出やすくなります。
つまり、麻酔薬の投与量が増えれば分娩におけるリスクも増えることになります。
当院が“無痛”ではなく“和痛”とする理由
当院が痛みを抑えた分娩方法を「無痛」ではなく「和痛」と表現するのは、お体の状態に合った麻酔量は一人ひとり違うためです。
言い換えれば、出産に必要な娩出力(いきんで赤ちゃんを産む力)は一人ひとり違うということです。
例えば下記のようなものです。
- 出産回数
- ⇒一般に、初産婦さんは経産婦さんよりもより強い娩出力が必要
- 母体体型
- ⇒身長・体重のほか、骨盤の形や大きさも人それぞれ
- 母体体力
- ⇒年齢、筋力、持久力
- 赤ちゃんの体重
- ⇒2700gの赤ちゃんと3600gの赤ちゃんでは必要な娩出力が違う
- 臍帯の巻絡
- ⇒へその緒が首や体幹に絡まっていれば、より強い娩出力が必要
これらの「一人ひとりの違い」を前提に、麻酔によるリスクをできるだけ少なくした分娩が和痛分娩です。
当院では、お産のリスクを抑え、自分でいきむことで感じられる「出産の実感」を大切にするため、“無痛分娩”ではなく“和痛(痛みを和らげる)分娩”を行っております。
和痛分娩で用いられる麻酔
硬膜外麻酔
硬膜外腔(背骨にある神経の束を包んだ膜の外側)に麻酔の薬を投与します。
鎮痛作用が他の麻酔より強く、薬が胎盤を通って赤ちゃんへ届くことはほとんどありません。
点滴からの麻酔薬(筋肉に打つ注射も含めて)
静脈内や筋肉内に麻酔薬を投与します。
鎮痛作用は硬膜外麻酔より弱くなります。
薬はお母さんの脳や、胎盤を通過して少量ながら赤ちゃんの脳にも届くため、一時的にお母さんや赤ちゃんが眠くなることがあります。
硬膜外麻酔について
硬膜外麻酔の方法
痛みを伝える神経は、背骨の中にある脊髄に集まっています。この脊髄に硬膜外腔に薬を注入し、その周囲の神経をブロック(遮断)します。
硬膜外麻酔のお産への影響
- 分娩(第II期)時間が平均14分延長
※分娩第II期の平均時間は、初産婦で1~2時間、経産婦で0.5~1時間 - 吸引分娩、鉗子(かんし)分娩の頻度が高くなる
原因は明確にされていないが、いきむ力が少し弱くなるためと推測されています。 - オキシトシン(子宮収縮剤)の使用頻度が高くなる
硬膜外麻酔の胎児への影響
- 生まれた直後に現れる影響
赤ちゃんの全身状態や、意識状態に悪影響は見られない。
むしろ、硬膜外麻酔分娩で生まれた赤ちゃんの方が元気といわれる。 - 成長していく過程に現れる影響
19歳までの学習障害(IQ、読み、書き、算数)はなかった。
硬膜外麻酔の母乳への影響
麻酔の薬がどのくらい授乳に移行するかという研究はあまりない
点滴からの麻酔は母乳への移行が少なく、赤ちゃんへの影響もほとんどない
硬膜外腔麻酔は点滴からの麻酔よりもさらに母乳中への移行が少ない
⇒赤ちゃんへの影響はほとんどないと考えられる
硬膜外麻酔のデメリット(副作用)
- 足の感覚が鈍くなる、足の力が入りにくくなる
(原因)足の運動や感覚をつかさどる神経に麻酔薬が作用
(対応・経過)薬の量を調節/投与量を減らせば症状は一過性 - 低血圧(程度が大きい場合は、お母さんの気分不快、赤ちゃんは苦しい)
(原因)血圧を調節する神経に麻酔薬が作用
(対応・経過)薬の量を調節/補液や昇圧薬を使用/通常は一過性 - 尿をしたい感じが弱い、尿が出しにくい
(原因)「尿をしたい感じ」をつかさどる神経に麻酔薬が作用
(処置・経過)必要に応じて尿管カテーテルを入れる/通常は一過性 - かゆみ
(原因)麻酔薬に対するアレルギー反応
(対応)薬の変更や投与の中止、アレルギー剤の使用など
◆まれに起こる副作用・注意点
- 硬膜穿刺(せんし)後頭痛
(原因)硬膜が傷つき髄液が漏れる
(処置・経過)起き上がると頭痛が生じる/安静にすることで通常は2~3日で回復 - お尻や太ももの電気が走るような感覚
(原因)チューブが神経に触れている
(処置・経過)チューブの挿入場所を変えるなど/神経に触れなくなれば症状緩和
医療従事者が硬膜外麻酔で注意していること
- 血管内に麻酔の薬が入っていないか
- 脊髄くも膜下腔に麻酔の薬が入っていないか
硬膜外麻酔をしてはいけない方
- 血液が固まりにくい方
- 大量の出血や著しい脱水がある方
- 背骨の変形や背中の神経に病気がある方
- 注射する部位の感染、または全身に感染がある方
- 局所麻酔薬アレルギーの方
上記に関しては、妊婦健診を通して全妊婦に対しチェックを行っております。
これまでの病歴等でお心当たりのある方は医師・看護師へお申し出ください。