- HOME
- 和痛分娩のQ&A
和痛分娩のQ&A
なぜお産は痛いのですか?
分娩は3つの段階に分けられます。陣痛が始まってから子宮の出口が完全に開くまでを「第I期」、その後赤ちゃんが生まれるまでを「第II期」、胎盤が出てくるまでを「第III期」といいます。
分娩第I期には、子宮が収縮することや子宮の出口が引き伸ばされることにより下腹部に痛みが生じます。子宮の収縮や子宮出口が引き伸ばされることによる刺激は、子宮周辺にある神経を介して背骨の中の神経(脊髄)にまとまって伝わります。この刺激はさらに脊髄を上って脳に伝わり、そこで痛みとして感じられます。
分娩第II期には、腟と外陰部が伸展し、その刺激が腟や外陰部にある神経から脊髄、脳へと伝わって下腹部から外陰部の痛みも感じるようになります。
赤ちゃんがお母さんの体から出てくることによって会陰(外陰部と肛門の間の部分)が急に伸び、大きく裂けてしまうことがあります。これを防ぐために、あらかじめ小さく切開(会陰切開)して赤ちゃんが出やすくすることもありますが、硬膜外鎮痛はこの切開の痛みも和らげます。
これらさまざまな部位の痛みは分娩第I期から第II期で突然変化するものではなく、強さを増しながら徐々に変化していきます。
分娩第III期は20分ほどで、あまり痛みを感じません。
お産のときは「どこ」が「どのくらい」痛いのですか?
分娩第I期には、お腹の下のほうから腰にかけて痛みを感じます。陣痛の始まったばかりの頃の痛みは比較的軽く、「生理痛のような痛み」または「お腹をくだしているときのような痛み」と感じる妊婦さんが多いようです。
それが、お産が進み子宮の出口が半分くらい開いてくる頃に痛みは急に強くなり、また痛みを感じる範囲も広がってきます。
そして分娩第I期の終わる頃には、おへその下から腰全体、そして外陰部にかけてとても強く痛むようになります。このときの痛みを「腰がくだかれそう」という産婦さんもいます。
子宮の出口が完全に開いて分娩第II期に入る頃には、痛みは外陰部から肛門の周りで特に強くなってきます。
赤ちゃんの体の一部が子宮から出て、下のほうに降りてくるためです。
赤ちゃんが生まれる間際には、外陰部から肛門周囲の痛みはピークに達します。
「すごく強い力で引っ張られる」、「焼けつくような痛み」と表現する妊婦さんもいます。
また、出産前にお産の痛みがどのくらい強いかを予測することは難しく、痛みの感じ方は人それぞれです。お産の痛みを調べた研究では、初産婦さんのほうが経産婦さんより痛みを強く感じるという結果がでました。また初産婦さんにとっても経産婦さんにとってもお産の痛みは、がんによる痛みや関節痛など、とても強い痛みとして知られている痛みよりもさらに強いものでした。
和痛(無痛)分娩のメリットはなんですか?
何といっても第一のメリットはお産の痛みが軽くなることです。
特に硬膜外鎮痛による和痛(無痛)分娩では、鎮痛作用が強く、疲労が少ないなどのメリットがあります。
また、一般にお産の痛みに耐えているときは、お母さんから赤ちゃんに届く酸素が減るといわれています。これは強い痛みがあると、お母さんの体の中でカテコラミンという血管を細くする物質が増えるために赤ちゃんへの血流が少なくなることや、陣痛の合間には、お母さんが呼吸を休みがちになることが原因と考えられています。したがって痛みが軽くなれば赤ちゃんに酸素がたくさん供給されると考えられます。そうはいっても正常な妊娠や分娩経過では、痛みによって赤ちゃんへの酸素供給が多少減ることはそれほど問題にはなりません。
硬膜外鎮痛法とはどんな方法ですか?
子宮や腟、外陰部、会陰部からの痛みを伝える神経は、体の他の部位からの神経と合わさり、背骨の中にある脊髄に向かって集まります。
硬膜外腔という場所に注入された薬は、硬膜外腔の周囲の神経に作用します。
そして子宮や腟、外陰部、会陰部からの痛みを伝える神経をブロック(遮断)し、お産の痛みを和らげます。
和痛分娩で用いられる鎮痛法にはどんな方法があるのですか?
薬を使って行う方法として、代表的なものは硬膜外鎮痛と点滴からの鎮痛薬投与です。
硬膜外鎮痛では、硬膜外腔という背中の脊髄の近い場所に、局所麻酔薬という薬と、多くの場合それに医療用麻薬を加えたものを投与します。
点滴からの鎮痛では静脈の中に医療用麻薬を投与し、痛みを和らげます。
「点滴からの鎮痛」では、静脈から入った薬はお母さんの脳に届きます。そして、お母さんよりは少量ながら、胎盤を通過して赤ちゃんの脳にも届きます。その結果、お母さんや赤ちゃんが眠くなったりすることがあります。また医療用麻薬が脳に届いたときには、呼吸を弱くする作用もあります。しかし、このような症状は一時的なもので、お母さんの静脈への薬の投与を中止すれば治まります。
「硬膜外鎮痛」では、脊髄と呼ばれる痛みを伝える神経の近くに薬を投与するため、とても強い鎮痛作用があります。また、薬が胎盤を通って赤ちゃんへ届くことがほとんどないことから、多くの国で和痛(無痛)分娩の第一選択の方法とされています。
硬膜外鎮痛はお産に影響するでしょうか?
分娩時間への影響:
硬膜外鎮痛を受けても、基本的には分娩時間への影響はありません。
分娩第I期(お産が始まってから子宮の出口が完全に開くまで)ではほとんど変わらず、分娩第II期(子宮の出口が完全に開いてから赤ちゃんが生まれるまで)は多少長くなる傾向があるものの、赤ちゃんが元気で産道を降りてきており、お母さんの痛みが十分取れているのであれば、分娩第II期がある程度延長することは問題ないと考えられています。
吸引分娩、鉗子(かんし)分娩への影響:
吸引や鉗子は、分娩第II期が著しく長い場合、お母さんの血圧が高い場合、赤ちゃんが産道を降りてくるときの進み方に問題がある場合などに使用されます。
硬膜外鎮痛を受けた妊婦さんでは、点滴から鎮痛薬を投与された妊婦さんよりも、吸引や鉗子を使うことが多くなることがわかっています。
しかし、どのくらい多くなるかは明らかではなく原因もわかっていません。一つの説としてお母さんのいきむ力が少し弱くなるためという説があります。
帝王切開率への影響:
これまでに行われた研究をいくつも合わせて分析をしたところ、硬膜外鎮痛を受けても、点滴から鎮痛薬を投与された場合と比べて、帝王切開となる率が高くならないという結果が出ています。
しかし帝王切開となる率を高めたという報告もあり、完全な意見の一致には至っていません。
オキシトシン(子宮収縮剤)使用への影響:
オキシトシンは、人間の体の中で作られるホルモンで子宮を収縮させる作用を持っています。子宮を十分に収縮させ、お産をスムーズに進行させるために人為的にオキシトシンが使われることもあります。
硬膜外鎮痛を受けた妊婦さんでは、点滴から鎮痛薬を投与された妊婦さんよりも、オキシトシンを使用する頻度がわずかに高いと言われています。
硬膜外鎮痛を受けると赤ちゃんに影響ありませんか?
生まれた直後に現れる影響について:
お母さんに投与した麻酔薬は一部赤ちゃんに移行しますが、赤ちゃんの全身状態(心拍数、呼吸状態、筋緊張、皮膚の色、反射を点数化)や、意識状態、いろいろな刺激に対する反応に悪影響はないといわれています。
ただし、お母さんの硬膜外鎮痛に用いる医療用麻薬の量が多いときには、生後24時間の赤ちゃんの音や光に対する反応や運動機能が、少ない量の医療用麻薬を投与された場合に比べて低くなることもあります。
しかしこの差は問題にならない程小さいと考えられています。
また、硬膜外に投与される医療用麻薬がとても多いと、生まれてきた赤ちゃんの呼吸が一時的に弱くなる危険性があります。
そのような悪い影響のないよう、薬の量は細心の注意を払って決めます。
点滴からの鎮痛薬の投与と硬膜外鎮痛との比較では、お産中の赤ちゃんの状態に差はほとんどないとして良いでしょう。
ただし、生まれたばかりのときは、硬膜外鎮痛を受けていたお母さんから生まれた赤ちゃんのほうが元気な場合が多いようです。
生まれた後に時間がたって現れる影響について:
硬膜外鎮痛や脊髄くも膜下鎮痛を受けたお母さんから生まれた子どもで、受けなかったお母さんから生まれた子どもと比べて、学習障害が多くなることは報告されていません。
硬膜外鎮痛は授乳に影響を与えますか?
静脈から医療用麻薬を投与した場合の母乳への移行は、検出はされるものの、その量は少ないとされています。
硬膜外腔に投与される麻酔薬は、静脈から投与される場合に比べて母乳中に移行しにくいとされており、硬膜外無痛分娩で使われた薬が母乳を介して赤ちゃんに悪い影響を与えることは、ほとんどないと考えられます。
硬膜外鎮痛の副作用が心配です。
麻酔は、不具合が生じないように細心の注意をはらって行います。
しかし痛み止めの作用が得られるとともによく起こる副作用(①~⑤)や、まれに起こる不具合(⑥~⑩)があります。
また硬膜外鎮痛を受けていなくてもお産のあとに起こりうる不具合(⑪~⑫)もあります。
【よく起こる副作用】
①足の感覚が鈍くなる、足の力が入りにくくなる:
お産の痛みを伝える経路である背中の神経の近くには、足の運動や感覚をつかさどる神経が含まれています。
したがって、麻酔薬によってお産の痛みを伝える背中の神経を鈍らせると、痛みが取れるとともに足の感覚が鈍くなったり、足の力が入りにくくなることがあります。
その程度は無痛分娩のやり方やお母さん一人ひとりによってさまざまです。
②低血圧:
背中の神経には、血管の緊張の度合いを調節しながら血圧を調節する神経も含まれています。
よって背中の神経が麻酔されることによって、血管の緊張がとれ血圧が下がることがあります。
その程度は問題とならない程度です。まれに程度が大きい場合があり、お母さんの気分が悪くなり、赤ちゃんも少し苦しくなってしまうことがあります。
したがって、硬膜外鎮痛を行うときには、血圧は注意深く監視され、下がった場合には速やかに治療される必要があります。
③尿をしたい感じが弱い、尿が出しにくい:
背中の神経には、尿をしたい感覚を伝えたり、尿を出すための神経も含まれており、鎮痛作用が現れるとともに、膀胱に尿がたまってもそれを感じなくなったり、尿を出そうと思ってもうまく出せなくなったりすることがあります。
その際は、細い管を入れて尿を出します。管を入れる処置は麻酔が効いている状態で行います。
④かゆみ:
硬膜外鎮痛(または脊髄くも膜下硬膜外併用鎮痛)に医療用麻薬を組み合わせて使うと、その影響でかゆみが生じることがあります。
がまんできないときには薬を使って治療しますが、ほとんどの場合、治療を必要としない程度のかゆみです。
⑤体温が上がる:
硬膜外鎮痛を受けている妊婦さんの一部では、硬膜外鎮痛を受けていない妊婦さんよりも体温が高くなると報告されており、特に初めてのお産のときにその傾向が強いといわれています。
熱がでるのは風邪をひいたときなどのようにばい菌の影響と思われがちですが、硬膜外鎮痛分娩中の発熱は、ばい菌が原因ではないと考えられています。
原因としては、子宮収縮にともなって代謝が亢進することや汗をかきにくくなること、痛みが取れているため呼吸が速くならず熱が体の外に放出されないことや、硬膜外鎮痛分娩を受けている妊婦さんでは何らかの炎症が起こっていることが考えられています。
硬膜外鎮痛分娩中にお母さんの体温が上昇した場合に、生まれた赤ちゃんに影響があるかどうかについては、さまざまな意見があります。
また、熱が高い場合には、感染が原因になっていないかを調べるためにお母さんと赤ちゃんに採血検査をすることがあります。
【まれに起こる不具合】
⑥硬膜穿刺後頭痛:
硬膜外腔に細い管を入れるときに硬膜を傷つけ(硬膜穿刺)、頭痛が起こる場合があります。
この頭痛は、硬膜に穴が開き、その穴から脳脊髄液という脊髄の周囲を満たしている液体が硬膜外腔に漏れることにより生じるとも言われており、頭や首が痛んだり吐き気がでたりします。産後2日までに生じ、症状は特に上体を起こすと強くなり横になると軽快します。まず安静にすることや痛み止めの薬をのむことで治療をします。
それによって頭痛や吐き気が軽くならない場合や、物が二重に見えるなどの特別な症状が見られた場合には、患者さん自身の血液を硬膜外腔に注入し、血をかさぶたのように固まらせることにより穴をふさぐ「硬膜外血液パッチ」という処置を行うことがあります。
⑦血管内に麻酔の薬が入ってしまうこと:
硬膜外腔にはたくさんの血管があり、妊娠中にはそれらの血管が膨らんでいます。
そのため、硬膜外腔へ入れる管が誤って血管の中に入ってしまうことがあります。
麻酔の薬が血管の中に注入された場合は、一時的に耳鳴りや舌に金属のような味がするなどの異常な症状が出ます。
血管の中に管がある場合には、管の位置の調整をして血管の外に置きます。
⑧お尻や太ももの電気が走るような感覚:
硬膜外腔に細い管を入れるときに、お尻や太ももに電気が走るような嫌な感じがすることがあります。
これは、管が脊髄の近くの神経に触れるために起こります。この感覚は一時的なもので、特別な処置を必要とせず軽快しますが、場合によっては管の位置の調整が必要なこともあります。
⑨脊髄くも膜下腔に麻酔の薬が入ってしまうこと:
硬膜外腔へ管を入れるときや分娩の経過中に、硬膜外腔の管が脊髄くも膜下腔に入ってしまうことが、まれにあります。
脊髄くも膜下腔に薬が投与されると、麻酔の効果が強く急速に現れます。
⑩硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に血のかたまり、膿(うみ)のたまりができること:
とても少ない例ですが、麻酔の薬が投与されるべき硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に、血液のかたまりや膿がたまって神経を圧迫することがあります。
永久的な神経の障害が残ることがあるため、できる限り早期に手術をして血液のかたまりや膿を取り除かなければならない場合があります。
正常な人にも起こることがありますが、血液が固まりにくい体質の方や、注射をする部位や全身にばい菌がある方は、血のかたまりや膿ができやすいので、硬膜外鎮痛を行うことができません(Q11「硬膜外鎮痛をしてはいけない場合はあるのでしょうか?」を参照してください)。
【硬膜外鎮痛を受けなくても、お産のあとに起こる可能性があること】
⑪産後の神経の障害:
お産のあとの神経の障害は、赤ちゃんの頭とお母さんの骨盤の間で神経が圧迫されることや、お産のときの体位が原因で起こることが多いといわれています。
お母さんの神経の障害には、硬膜外鎮痛の経験の有無は、関連はないとされています。
⑫腰痛:
妊娠中から産後に腰が痛くなることがよくあります。
しかしこれらは、妊娠にともなって背中の靭帯が軟らかくなり、妊娠して大きくなった子宮の重みがかかることで、背骨にかかる負担が大きくなるために起こります。
腰痛は、硬膜外鎮痛を受けた人も受けなかった人も同じくらいよく起こると報告されています。
和痛分娩を受けたいのですが、どうしたらよいですか?
和痛(無痛)分娩を希望する場合は、早いうち(原則、妊娠34週まで)にその希望を伝えてください。医師、その他スタッフが妊婦さんのこれまでの病気や体の状態を事前に把握し、和痛(無痛)分娩をスムーズに行うためです。
そして、説明会にて和痛分娩に対する理解を深めてください。事前に希望していることを伝えていないと和痛(無痛)分娩を受けられないこともありますので注意してください。
また、施設により和痛(無痛)分娩の方法に大きな違いがありますので、当院の方法について十分な説明を聞き、よく納得した上で分娩に臨んでください。
硬膜外鎮痛をしてはいけない場合はあるのでしょうか?
お母さんの状態によっては、硬膜外鎮痛を希望してもできない場合があります。
血液が固まりにくい場合:
硬膜外麻酔にともなって生じることのある、硬膜外血腫(Q9「硬膜外鎮痛の副作用が心配です」の⑩をご覧ください)は、血液が固まりにくい状態にあると起こりやすくなります。
これまでに血液が固まりにくい体質だと言われたことがある方は必ず担当医にお伝えください。また、妊娠やお産の経過中に血液の固まりやすさは変化することがあり、もともと血の固まりにくい体質でなくても、硬膜外鎮痛をすることができなくなることがあります。
硬膜外鎮痛を行う際には、あらかじめ血液の固まりやすさの検査を行います。
大量に出血していたり、著しい脱水がある場合:
硬膜外鎮痛を行うと血圧が急激に低下する危険性が高いため、行うことができません。
背骨に変形がある場合、背中の神経に病気がある場合:
背骨に変形がある場合は、変形の程度や、変形の位置によっては、硬膜外腔に管を入れることがとても難しいことがあります。
また背中の神経が病気に冒されていると、神経の近くに麻酔薬を投与する硬膜外鎮痛は行えないことがあります。
注射する部位の感染、または全身に感染がある場合(菌血症、敗血症、ウイルス血症):
正常な状態では、硬膜外腔や脊髄くも膜下腔は、ばい菌のいない場所です。
しかし、背中の注射する場所や全身にばい菌がいる場合は、硬膜外腔に刺す針や管を介して、硬膜外腔や脊髄くも膜下腔にばい菌を持ち込んでしまう危険性があります。
局所麻酔薬アレルギー:
局所麻酔薬に対するアレルギー反応はまれですが、起こると深刻な状態に陥ることがあります。もしも以前に局所麻酔薬に対してアレルギー反応があった場合には、必ず担当医にお伝えください。
上記以外にも、硬膜外鎮痛を行えない場合や慎重に行わなくてはならない場合があります。
硬膜外鎮痛は、いつ、どのように始めるのですか?
硬膜外鎮痛は、陣痛が始まって妊婦さんが痛み止めをしてほしいと感じ、医師の許可が得られた時点で開始します。陣痛間隔が5分ごとで、子宮の出口が3~5cm開く頃に始めることが多いですが、妊婦さんの状態やクリニックの体制なども考慮し、そのタイミングを医師が判断します。早期から強い痛みを訴える産婦は、難産となり帝王切開術を必要とする頻度がもともと高いことが知られており、早期に硬膜外鎮痛を開始したことが帝王切開術を増やすという証拠はありません。
硬膜外鎮痛を行う際には、背中の奥に薬を注入するための細い管を入れますが、これはベッドに横向きに寝て、または、座って背中を丸めた姿勢で行います。①最初に細い針を使って皮膚の痛み止めをします。②そして管を入れるためのやや太い針を刺します。
このときはもう皮膚の痛み止めが効いている状態ですが、押される感じはあります。③針先を硬膜外腔に進めたら、その針の中を通して管を硬膜外腔に入れます。その後、④針だけを抜くと柔らかい管だけが体に残るというわけです。したがって針は体に残しておくわけでないので、管が入ってしまえば、背中を下にしたり、体を動かしたりしても大丈夫です。
この硬膜外の管を入れるのは20~30分程度の処置です。
硬膜外の管から薬を注入すると20~30分程で徐々に鎮痛作用が現れます。
鎮痛作用が現れ始めたときには、陣痛が弱くなった、短くなったと感じる妊婦さんが多いようです。
鎮痛作用が十分に現れると、お腹が張っているのに痛みがなくなっていることに気づくと思います。
同時に足が軽くしびれた感じがあるかもしれませんが心配ありません。
硬膜外鎮痛の管が入ったあとはどうなるのですか?
硬膜外腔に入った局所麻酔薬は、子宮や腟、外陰部、会陰部の痛みの神経をブロック(遮断)すると同時に、足の感覚の神経や、足を動かす神経も鈍くします。
よって硬膜外鎮痛分娩中は、足がしびれる感じがしたり、足の力が弱くなったりします。
また、排尿にかかわる神経にも作用し、尿意がなくなったり、排尿が難しくなるため、硬膜外和痛(無痛)分娩が始まったら歩行せずベッド上で過ごしていただくことがあります。詳しいことは当日スタッフにお尋ねください。
陣痛が始まると胃腸の働きが弱くなるため、和痛(無痛)分娩が始まったあとの飲食は制限します。飲んだり食べたりを一切禁止するのか、お茶やお水は許可するのかは分娩の状況を踏まえて判断します。
硬膜外鎮痛分娩では、お産のあとはどうなりますか?
分娩後に硬膜外腔への薬の注入を止めます。鎮痛作用は徐々に弱くなり、数時間後にはすっかりきれてしまいます。硬膜外腔に入れた管は鎮痛作用を必要としなければ抜くことが多いでしょう。その後の経過や過ごし方は、赤ちゃんとの接し方も含めて、和痛分娩でない分娩との違いはありません。
計画分娩とは?
「計画分娩(誘発分娩)」とは、分娩の日取りをあらかじめ計画的に決め、陣痛が始まる前にお薬を使ったり処置を行って陣痛を起こすことです。すなわち自然の陣痛を待たずに、子宮の出口への処置や点滴からの薬を用いて分娩を進行させます。
自然に陣痛が来て、お腹が痛くなったときに硬膜外鎮痛分娩を始められればよいのですが、現在の日本では365日24時間硬膜外鎮痛分娩に対応できる体制が整っている施設は多くなく、限られた曜日や時間帯にしかできない施設もあります。そこで希望している妊婦さんがなるべく硬膜外無痛分娩を受けられるように、計画的に分娩を進めます。
日取りは、お腹の張りが頻繁になり、子宮の出口が柔らかくなる(熟化といいます)時期を選びます。
器具を使って熟化を進める方法
子宮の出口の熟化が進んでいない場合には、子宮の出口に小さい風船のようなものや柔らかい棒状のものを入れて熟化を促します。
薬を使う方法①
陣痛を強めるにはオキシトシンという子宮収縮薬の点滴をおこないます。この薬はもともと人の体内にあるホルモンの一種です。人によって効力が異なるため、少しの量から始めて、だんだんに増やしていきます。陣痛が強くなりすぎる(過強陣痛)と赤ちゃんの酸素が足りなくなったり子宮が裂けたりすることがあるので、分娩進行中はおなかにベルトを巻いて赤ちゃんの心音(心拍数)と子宮収縮の状態を注意深く観察します。
薬を使う方法②
オキシトシンの点滴を始める前に、子宮の出口を柔らかくするお薬を飲むことがあります。この場合も、赤ちゃんの心音の監視が必要です。
※当院では、できるだけ自然なタイミングでのお産を心掛け、計画分娩を行います。
自己調節硬膜外鎮痛とはなんですか?
自己調節硬膜外鎮痛は英語でPatient Controlled Epidural Analgesiaと呼ばれ、一般にPCEAと略されます。
硬膜外鎮痛分娩開始後に痛みを感じたときに、妊婦さん自身が硬膜外腔への痛み止めを追加投与できる鎮痛法です。硬膜外腔に入っている管にはポンプが接続され、そのポンプを妊婦さん自身がボタン操作をして薬を注入できるようになっています。投与できる薬の量は自動的に制限されるしくみになっていますので、ボタンを押しすぎても使いすぎる心配はありません。
PCEAでは一定量の鎮痛薬を持続的に投与する方法と比べて、同じような鎮痛作用を得ながらも、痛みが増強したときに医療スタッフが鎮痛薬を追加投与する回数は少なく、鎮痛薬の総使用量が少なく、足の力が保たれやすいともいわれています。
硬膜外麻酔分娩の費用はどのくらいですか?
硬膜外麻酔分娩の費用は健康保険を使って支払うことができないため、妊婦さんご自身が負担しなければなりません。
当院では通常の分娩費用※に加えて12万円をいただいております。この中には、薬剤の料金と手技量もすべて含まれております。
※通常の分娩費用
○初産婦:67万円
○経産婦:63万円
○当院分娩2人目以降の方:58万円
上記料金は目安となります。
保険を伴う処置や時間外加算等が発生した場合は、別計算となります。
夜間・休日などの時間外には、時間外管理加算2万円が別途かかります。
費用についての詳しいことはスタッフに直接お問い合わせください。